2011年11月6日日曜日

「スティーブ・ジョブスⅡ」読書感想〜無限の彼方へ〜


iPad2の電子書籍版と書籍版を並べてみた。。
週末一気に読んでしまって、少し脱力。。でも、噛み応え充分の本書は、2000年代にパソコンとIT業界で何が起こって来たのか、そして、これからの未来がどうなるのか、考えるに充分な内容になっている。いつか、読む事をオススメ。(今日の読書感想は、ややネタバレでないと、どうも書けない気がするので、これから読まれる方は要注意。)

オープン vs クローズド
パソコン黎明期を体験して来た世代には、懐かしい言葉だ。デジタル情報をずっとキャッチアップして来た人には、聞き飽きたテーマだろうが、これは延々と繰り替えず「あざなえる縄」の様だ。
マイクロソフトが、プラットフォームであるOSをオープンにした事で、市場を席巻し、ジョブスのAppleは完全に負けた。本書は浪人中のNeXT時代から記述が始まるが、ハードとソフトの垂直統合にこだわったジョブスが、iPod/iTunesで業界にイノベーションを起こしたあたりの快進撃は一番読ませる。必要な物全て持っていたにも関わらず、業界を変革出来なかったソニー(池田信夫さんも鋭く分析しておられる)の下りは、同じ日本人としてやや悲しく情けないが、、他山の石とは思えず、思わず背筋が寒くなる。
ソースは常に公開され、広く多くの人々によって玉石混合で作って行こうじゃないかという考え方(オープン派)と、いやいや、それじゃ結局グダグダで、判りにくく使いにくい物が山の様に出来上がるだけだという考え方(クローズド派)、どちらも一理あって、時勢によって交互に優勢になっているのが、2000年代であるらしい。
iTunes/Appstoreまでは、クローズド派が先行優勢だったが、Androidの登場でまた「オープン」の時代が来るのではと囁かれている。(我が家の夫などはこっち派)
この状況下でのジョブスの死は、凄く痛いんじゃなかろうか、、と思えてしまうが、本書を読んで少し印象が変わった。

Appleの人々
ジョブスのプレゼンテーションが強烈なので、Appleは「ジョブス帝国」という印象を持ってしまうが、本書は2000年になってからのAppleを支えた人々の記述も多い。特にデザイン部門を統括する「ジョニー・アイブ」は度々登場して、後任CEOを務める「トム・クック」よりも印象が強い。
1967年生まれ(!!ほぼ同世代だ!!)のアイブは、イングランド出身で銀細工場に務める父を持つ工業デザイナーである。ジョブスが「心友」と称する間柄で、ジョブス復帰後に生み出されるAppleの製品デザインを全て統括して来た。(もちろん、彼の下のチームがアイデアを出しているのだろうが)
このアイブが、よく悲しくなったのが、自分や自分のチームの仲間がスケッチしたり作ったアイデアを、ジョブスは初見で「くだらん!」とけなした癖に、しばらくすると、さも自分が考えたかの様に他で言って回ってしまう姿だったそうだ。(究極は製品プレゼンの時)デザインに限らず、昔からしばしばジョブスにはこの癖があって、却下した癖に、後日「いい事を思いついた。」とその却下した内容を進言した当人に、滔々と述べたりしたそうだ。(言われた本人も「それは、私が先日申し上げた内容ですが。」ときっちりやり返したらしい)
そんな「無茶苦茶CEO」ではあるが、アイブはジョブスを信奉している。慕っているからこそ、何故そんな無体な事をするのかと悩むらしい。アイブが工業デザイナーらしい鋭さで、プロダクトを磨き上げるセンスを、ジョブスも買っていたし、彼の考え方は非常に含蓄があって、畑違いであるが同じデザインを志す身として、学ぶ所が多い。
又、クールで有能なトム・クックは、彼だからジョブスの代役が務まると思える人物で、アクの強いメンバーをソフトに統括しているらしい。しばらくは、Appleも今の勢いで成長して行けるだろうが、問題は飛躍しなければならない時に、どのように判断するかではないだろうか。
こうして読むと、昨今飛ばしているAppleのクールなアイデアは、一つ一つをジョブスが考えた訳では無く、周囲が懸命に進言したり、ブラッシュアップした物が殆どである事だ。そして、それはジョブスが目指した究極の姿でもある。

永く続く会社を作りたい
本書を読んで目を開かされる思いだったのが、ジョブスのこの言葉だ
僕は、いつまでも続く会社を作る事に情熱を燃やして来た。すごい製品をつくりたいと社員が猛烈に頑張る会社を。それ以外は全て副次的だ。もちろん、利益を上げるのも凄い事だよ?利益があればこそ、凄い商品を作っていられるのだから。でも、原動力は製品であって利益じゃない。スカリーはこれをひっくり返して、金儲けを目的にしてしまった。殆ど違わないというくらいの小さな違いだけど、これが全てを変えてしまうんだ。ーー誰を雇うのか、誰を昇進させるのか、会議で何をはなしあうのか、などをね。(スティーブ・ジョブスⅡより)
上巻から下巻まで、時折「HPの様に永く続く会社を作りたい。」と彼は語る。そしてその「すごい製品」とは、人々の生活が豊かで創造性に溢れ、喜びに満ちた物になる事を手助けする製品であって欲しい、、渇望に近いまでの情熱を持って取り組んで来た事は、言うまでも無い事実である。

約一月前に訃報を聞いてから、この本が出るまでの間に、iPhone4Sに機種変更をして、iCloudを介したストリーム時代を体験している。アップグレードでデータが消えてしまったり、それを復元するのに丸一日使ったりと、それなりに四苦八苦したけれど、配線をつながなくても、自動で同期が取れる環境に改めて感動を覚える。
4歳の娘はiPad2がお気に入りで、動く絵本や種々様々なお絵描きソフトを、勝手に使って楽しんでいる。完璧なデジタルガジェットエイジだ。本書でもジョブスが
「字も読めない田舎の子がiPad2でゲームを勝手に始めた。」というエピソードを聞いて喜んだとある。世界中のそこここで、この現象は起きているだろう。
彼はこのiPad2をテコに、教育界も改革したかったらしい。本当に残念な事だ。我が家にも三人の未成年が居るが、この子達の時代はどんな世の中になっているのか、ジョブスの伝記を読みながらそんな事に思いを馳せる。
ジョブス程の事は何も出来ないが、少なくとも Cクラスの頭脳でも、考えないよりはずっといいだろうと自分に言い聞かせたりもしている。

さて、何となく追悼気分だったのを、そろそろここいらで終わらせたいと思う。
最後にとても心に残るスピーチを紹介しているMACLALALA2さんのブログを紹介して終わりにしたい。英文と翻訳の対になっていて非常に良いです。

「ジョニー・アイブの追悼スピーチ 」
「血を分けた兄の死(1)〜(4)」実妹モナ・シンプソンのスピーチ

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