2012年7月22日日曜日

アゴラ読書塾Part3第3回「宗教を生みだす本能」ニコラス・ウェイド著 〜言語/宗教/音楽の生まれた理由?〜

第三章が一番の要
今回の読書塾のテーマは、学術的にまだ完全に証明されていない興味深い学説の紹介である。
「宗教を生み出す本能が、人間の遺伝子レベルに組み込まれている。」
というのがその主旨にあたる。なかなか興味深く、やや複雑な内容だが、少し自分なりに図解を交えて解説を試みてみる。


ブラック・ルーシー
古い教育を受けて来た私は、
「人類の祖先は東アフリカから誕生した。」
という新常識を成人してから知った。学校で習った時は「アジア人の祖先は北京原人」ってな感じで、「クロマニオン人はヨーロッパ人の祖先」と習った覚えがある。
だから体格や髪、眼の色が違うのは、「そもそも祖先が違うからだ。」と安直に結論付けていた。
1974年エチオピアで発見
ところが、遺伝子解析の技術が向上し、人類の祖先は全て共通で東アフリカの平原から地球全土に広がったと証明された。 ブラック・ルーシーである。最近はさらに古い「アルディ(ラミダス猿人)」も発見されもっと研究は進んでいるようだが、いずれにせよ人類は共通の祖先を持っていたという事実に変わりは無いようだ。
今日の学説を解説するにあたり、この前提を頭に入れておこう。


人類の歴史の大半は狩猟採集時代
人類が二足歩行を始め、東アフリカの平原に生きていた時代、狩猟採集を主とした生活を送っていた。遺跡発掘調査から最大で150人、平均すると50人程度のグループになって、2週間毎に移動するという、極めて流動的な生活を送っていた事が明らかになる。
それまでの学説では、人類と直前に枝分かれしたチンパンジーのように「ボスを頂点とした猿山」を形成したのかと思われていたが、後に似たヒエラルキーの社会を構築するものの、人類の歴史では先に「徹底した平等主義の戦闘的集団」が形成された事が明らかになりつつある。
獲物は集団の中で徹底して公平に分け合うのが鉄則だった。
丁度、今年の初めにNHKスペシャルで「ヒューマン〜なぜ人間になれたのか〜」という非常に良いドキュメンタリーが放送されていた。今回の内容を理解するのにうってつけなので機会があれば視聴をお勧めしたい!(NHKオンデマンドで視聴可能です)

さて、人類がこのように移動を繰り返しながら生活をしていた故に、様々な能力が遺伝子レベルに埋め込まれた、、というのが、今回のテーマである。


フリーライダーの排除
少人数が運命を共にする集団にあって、最も困り者なのは「フリー・ライダー」や「手柄を独り占め」する存在だ。
人間の本能レベルでは「利己的」であるが集団を維持する事が出来無い。
個人レベルで考えれば、何の苦労も無く果実(食べ物)を得られるのが、最も合理的と言える。
「利己的に振る舞う個人(フリー・ライダー)」と「利他的に振る舞う個人」が対峙した場合、フリーライダーは常に勝てるが、全員が「フリーライダー」になってしまうとその集団は自滅してしまう。
利他的に振る舞う個人が集まって集団となった場合、最も強く結束出来るので「集団淘汰」が始まるという。この集団淘汰の為のツールとして
  1. 言語
  2. 音楽
  3. 宗教
 が遺伝子レベルで組み込まれたというのだ。


利己的個人と偏狭な利他的集団
親が子どもを識別するのはたやすい。私も3人の子を生んだが、脳の深いレベルで認識し、繋がっていると直感出来る。だが一方で、それだけでは人間同士のつながりを説明するのは難しい。単純な「縁故」だけでは無い、強固なつながりがある事を、我々は経験的に知っている。
友人、同郷の人、他人の子、それらに対し「守ろう」とする感情を人類は獲得したというのだ。
人類が人類である根本の理由は「言語/宗教/音楽」を持っているからなのかも知れない。
 自分の血族で無い他人を、どうやって「自分と同じ仲間だ」と認識するのか。。そこで登場するのが、先に述べた「言語/宗教/音楽」だと、著者のウェイドやE・Oウィルソンは主張する。
この三つを持たない部族は地球上に無く、特に「言語」は生まれながらに習得能力を持っていて、鍵穴に何の言語(両親が話す言葉)が入るかを待っているだけなのだと言う。

確かに、「日本語にはね、主語と述語があってね。」と我が子に教える親はいないだろう。そんな事をしなくても、赤ちゃん言葉で語りかけて行くうちに、三歳までに一端の言葉を話し始める。
一方、宗教(音楽は宗教と密接に関わっているのでこの場合一つと考える)は「教え込まなければ動き出さないシステム」 ではないかと池田信夫氏は解説していた。


戦闘集団から守りの集団へ
丹念な人骨分析の結果、狩猟採集時代の人類は成人男性の13〜15%の死因が「殺戮」によるものであるとする調査報告がある。
常に乏しい食糧を求め、移動を強いられる生活は過酷を極めただろう。食べ物を巡っての戦闘はまさに「ちょくちょく」行われていたとウェイドは指摘している。

やがて、それだけを繰り返していては埒があかないと、人類は「農耕」を発達させる訳だがこの時に、「猿山」のようなヒエラルキーを形成して、「強いボス」の下に階層社会を築きはじめる。いわゆる「国家」の始まりである。

農耕社会で「猿山」と同じ仕組みになるが埋め込まれた性格は「戦闘的」と言えるかも知れない。
ここで、チンパンジーと似た社会構造を持つ事になるが、それまでの来歴を考えるとその性格はかなり違う。表面上は「守り」の姿勢でありながら、その内部には祖先から埋め込まれた「戦闘する集団」という因子を持っているのかも知れない。


世界に感じていた不思議
今回のお題本もなかなか難解で、自分なりに解釈するのに時間がかかった。
順序た立てて整理して思うのは「理解不能」で片付けようとしていた、世界の国々で起きている出来事の違う側面を感じた事である。

「BS世界のドキュメンタリー」という良質な番組がある。
そこで見た、聖戦に命を散らす若者達の姿を思わずにいられない。「ハマスの女達」というタイトルだったが、息子達を次々と「聖戦士」として送り出す母親達は、涙する事を許されない。その固い表情の下には当然悲しみが宿っているのだが、大いなる大義の下では「個の悲しみ」は取るに足らないものであるとされている。
この一連の様子があまりに、日常的に淡々と見えたので
「ああ、、理解出来ない。でもこの人達にはそれが普通なのかな。」
と錯覚しそうになった。
この「錯覚」こそが、著者のウェイド達が言わんとした「体内に埋め込まれたシステム」なのかも知れない。。。どこまで本当で立証可能かは判らないが、、、。

と言った所で今週はおしまい。
来週は、その世界の動きの中にあって特異な発達を遂げた「中国」の話を再びの予定。

1 コメント:

mukunoki さんのコメント...

大脳新皮質の発達した生物は、生物にとっての本来的な活動である、捕食や生殖にまつわる行動についても、学習を必要とする。
学習による獲得を必要とする生物は、本能領域の大きな生物に比べて、それぞれ個体の属する集団内での文化が、遺伝子に組み込まれた能力を補助、拡張、汎用的拡大させるために機能しているという事実を示したものであるといえる。
そうした中で、人間における利他的要素は、遺伝子の原則としての利己的進化を、集団(社会)を利用した戦略的利己手段として進歩させたものであると位置づけることができる。

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